お知らせ

前十字靭帯断裂

背景

ヒトの前十字靭帯断裂と犬のそれとは病態が大きく異なります。
ヒトは主に外傷にて発症しますが、犬は明らかな外傷なく、自然発症します。普通に散歩している最中に突然切れてしまうことも珍しくありません。
ヒトと違いイヌの膝には頭側へ推進する力が常に働いているため、歩行時だけでなく立位においても前十字靭帯にずっと負荷がかかっています。
野生動物時代は恐らくこの前方に推進する力をもった膝関節が素早いスタートダッシュ、無駄のない走行に必要だったのだと勝手に想像しています。
感染症による死亡が激減し、寿命が長くなった事でそれまで充分であった前十字靭帯の強度が足りなくなってしまったのかもしれません。
寿命が伸びだだけでで靭帯が切れるわけではありません。大型犬または膝蓋骨内方脱臼を患っている小型犬、肥満傾向にある犬、雄よりも雌に好発する傾向がある事が知られています。
脛骨高平部角度(Tibial plateau angle)が犬の前十字靭帯断裂の病態に関与していると言われています。
*理屈の説明は省きます。

診断

1.触診
慢性経過をたどった症例であれば視診やレントゲン検査に特徴的な症状を示す場合もありますが、初期は触診以外に診断する方法がありません。
完全断裂であれば1cm前後、部分断裂だと3mm前後の動揺を触知する必要があります。
2.関節鏡検査
 前十字靭帯の部分断裂だけでなく、関節軟骨の損傷の程度や、半月板損傷の有無を細かく観察する事が可能です。同時に関節内の処置も実施できます。デメリットは麻酔が必要な事と費用です。
3.超音波検査
前十字靭帯や半月板を確認する事ができます。
メリットは触診で伝えづらい情報を飼い主様に視覚的に説明しやすい事、嫌がらない子であれば無麻酔でも検査可能な事です。
デメリットは毛刈りが必要な事と触診ほど重要視される検査ではない事
*類似した症状をしめす疾患を除外するための検査も必要です。

治療

1.保存療法
 古い文献(1980年代)ですが体重15kg以下で発症した犬の前十字靭帯断裂は保存療法のみでも約8割の飼い主様は結果に対して満足していたという報告があります。
体重15kg以上で発症した場合はその逆で、保存療法で満足した飼い主様は2割程度だったと言われています。
麻酔、手術の回避が利点です。膝関節の動揺は残るため、関節炎の進行が最もはやいのが欠点です。
 運動制限、体重制限、消炎鎮痛剤、サプリメント、装具等を状態にあわせて提案します。
2.手術
・膝関節内の観察・処置

切れた前十字靭帯は疼痛や関節炎を助長する要因となるため、取り除きます。半月板損傷の有無を確認し、併発している場合は半月板の部分切除も同時に実施します。

膝関節内の観察・処置は以下の2つに代表される術式の結果を大きく左右する要因になります。

1.関節外法

糸を用いて脛骨の前方動揺を抑制します。術後半年程度の運動制限が必要です。

2.TPLO

日本語では脛骨高平部水平化骨切り術といいます。脛骨を切って、脛骨高平部角度を矯正する手術です。ヒトの膝関節の高平部角度に近い角度にまで矯正します。骨癒合(術後8~12週)まで運動制限が必要です。

1も2も変法がいくつかありますが、術後の経過に対する満足度はいずれも90%前後で大きな差はありません。
術後に目指す活動量や回復までに必要な期間、合併症にたいする許容度、費用等を考慮しながら飼い主様と相談の上、決定します。

 


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